先生のお話

看護師がエコーを使いこなすことで現場に笑顔の花を咲かせよう

  • 市立貝塚病院

皮膚・排泄ケア認定看護師

西川 貴子

ニシカワ タカコ
TOP/Column/看護師がエコーを使いこなすことで現場に笑顔の花を咲かせよう

当院が誇るU-Nsチームを紹介します!

初めまして。市立貝塚病院 皮膚・排泄ケア認定看護師の西川貴子です。

突然ですが、POCUSってご存じですか?POCUS(Point of care Ultra sound)とは、検査室等で診断目的にする系統的超音波検査とは異なり、ベッドサイドでポイントを絞って実施する超音波です。

私が勤務する市立貝塚病院は、2023年より看護師によるエコー推進チーム「U-Nsチーム」を立ち上げ、認定看護師を中心としてPOCUSの推進活動を行っています。インストラクターに認定看護師を配置し、院内の看護師に安全で正確なエコー運用技術を修得させるための教育システムの構築に努力しています。

私たちは、院内の倫理委員会の承認を得て、看護師が使用するエコーの領域を設定しました。
現在は、エコーガイド下末梢静脈穿刺、排尿ケアチームにおける膀胱・前立腺の観察、嚥下評価、インスリンボールの検索、ストーマサイトマーキング、重症観察室での下大静脈、胸水、腸管拡張の観察に活用し、医師と情報共有を行ないながら、看護ケアの質向上に務めています。

U-Nsチームの活動は、未だ過渡期であり、現在に至るまで順風満帆だったわけではありません。今回は、そんなU-Nsチームの誕生から現在までの軌跡をご紹介します。

私とエコーの出会い

私がエコーと出会ったきっかけは、足底部熱傷をきたした糖尿病性神経障害のある患者の存在でした。
フットケア外来で介入し、一旦は治癒したかに見えた深部組織損傷が再燃したのです。下肢切断は免れたもののフットケアチームとして自責の念を抱き、とても落ち込みました。

程なくして、著明な先生によるフットケア研修会に参加しました。
その際に、深部組織損傷の検索にエコーを活用していることを知り、大きな衝撃を受けました。
「エコーがあれば、リスク回避できたのでは。」この経験を機に、私はエコーに深く興味を持つようになりました。

背中を押してくれた医師

その後、遂に、2020年12月に新型コロナの慰労金でエコーを購入しました。最初は自宅で家族の膀胱内尿量を描出し練習しました。膀胱内尿量はすぐに描出が可能となり、ますますエコーが好きになりました。
それでも、臨床現場での実践には至らず、はじめの一歩が踏み出せませんでした。

そのような状況で、背中を押してくれたのが1人の医師の存在でした。

その医師は、私のエコー普及の夢に理解を示し、技術指導や、診療録への記載も積極的に実施するように支援してくださいました。
このことがきっかけで、私は入院患者さんにエコーを実施するようになり、はじめの一歩を踏み出すことができました。

その後、膀胱エコー、ストーマサイトマーキングの院内セミナーを実施したり、外部講師を招いてエコーガイド下末梢静脈穿刺、FoCUSのハンズオンセミナーを開催したりしました。

1人の看護師が現場でエコーを活用する孤独でビターな日々

しかし、当初看護師がエコーを実施することに現場の戸惑いがありました。

「エコーは医師がするもの。」「看護師は診断してはいけない。」「誤った判断をしたら誰が責任をとるのか。」など、現場の不安は大きなものでした。
現場の組織内合意がない中、エコー実践者も増加することなく、しばらく孤独な日々が続きました。

また、現場で看護師が使用できるエコーは1台だけでした。
優先順位は、医師、臨床検査技師が使用するので看護師が実施したいときに使用できないことも多々ありました。
院内セミナーでエコーファンが増えても自由に使えるエコーが圧倒的に不足していたため、私たちの活動は十分に周知されませんでした。
ハンズオンセミナーを繰り返すだけでは、エコーの技術が患者に届かないという現状が続きました。

決意。そして仲間が増えて

この頃、異なる医療施設で治療を受けるがんサバイバーの友人が、抗がん剤治療での末梢血管確保が出来ず、とても困っていました。
いくつかの対策を試行錯誤したようですが、解決には至りませんでした。

その話を聞いて、私は、エコーで穿刺に適した血管を検索すれば問題の解決の一助になるのではないかと考え、エコーガイド下末梢静脈穿刺を習得する決意をしました。
そこで、電車で3時間かけて知り合いの透析クリニックに研修を依頼しました。
私が、がんサバイバーの友人の医療施設に出向いて穿刺をするわけではありませんが、臨床現場で1人でも多くの穿刺困難な患者さんの苦痛を軽減したいと強く思いました。

技術を習得した私は、院内で実施できる教育システムの整備に着手し、その後、約2ヶ月間で2名の看護師が手技習得を果たしました。
そして同じ時期に、学会の奨学エコーコンペの受賞がきっかけで、看護師によるエコーの活動が活発となり仲間も増えました。
看護局の承認を得て認定看護師によるU-Nsチームが発足したのでした。

未来への笑顔の花の種まきをしよう

現在U-Nsチームは、地道な活動が実を結び、エコーのバリエーション、インストラクターの人数が増加しています。
そして2024年3月、ついに看護師専用のポケットエコーを2台配置してもらえるようになりました。これは大きな進歩です。

インストラクターは、シェアド・リーダーシップの考え方を採用し、個々の分野で目標設定をすると共に研修を企画しています。
また、必要に応じてインストラクター間で意見交換を行っています。
すでに普及が進んでいる領域では、研修生看護師の習得技術が定着する機会、また、スキルアップができる機会を提供しています。

もちろん、エコーは看護の問題全てを解決する万能ツールではありません。
看護師の業務は、定められた勤務時間の中でそのパフォーマンスを最大限に発揮すべく自律して行動するのが大原則です。

患者の身体観察を行なう中で、エコーのメリット・デメリットの深い理解の上に、必要と判断した時には看護師がエコー機材を活用できる環境が大切であると考えます。
取り組みの初期には、複数の看護師でエコーを使用してみて、感想を語り合うこと。それが、エコーの活用促進につながり、看護の質の向上につながると感じています。
難しい末梢静脈穿刺にエコーを活用して1回で穿刺に成功した看護師は笑顔になる。そして患者側も笑顔になる。看護師によるエコー教育システムの構築は未来における患者と看護師の笑顔の花の種まきにも似ていると感じます。

イノベーションには障壁がつきものです。
看護師によるエコーの活用と普及にあたっては、障壁を乗り越えるための現場の管理者やトップマネージャーの理解と協力が不可欠です。
時間をかけて、周囲の賛同を得ることで障壁を打開し、新たな看護を研鑽する道が開けると確信しています。

エコーがすべての看護師が活用するツールとなる未来の実現を、私は強く願っています。
皆さんも私たちと一緒に、はじめの一歩を踏み出しませんか?